とっぷりと日が落ちて、黒いシルエットになった草原の上を、ざわざわと音をたてて、通り過ぎていく風。
僕は冷奴を肴に、急に一杯やりたくなった自分を、内心責めていた。
勢いでここまで来たものの、夜の草原を歩いて突っ切るなんて、少々勇気が必要だ。
どうしよう…やはり引き返そうか?…と迷っていると、ふいに草原のあちらこちらに小さな明かりが灯った。
緑や青に輝く蛍石灯。それをたどっていけば、やがて小さな明かりの灯った、一軒の店が見えて来る。そして
はやる気持ちをおさえて、店の引き戸に手をかけてカラリと開けば、ふわりと豆の優しい香りに包まれた。
豆腐一丁分の重さに頬をゆるませながら、帰り道を歩いていると、雲間から三日月が顔をのぞかせた。
どうやら月も今宵のささやかな宴に参加するつもりらしい。
